もう一つのクロスロード

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引退をかけた最終レース。

「やっと、見つけたんだ。自分の進むべき道を」


最後尾からのスタート。次世代レーサー達を追う。

自分の限界。それは、ラミレスとのレースで痛感した。

テクニックだけで埋められない差があった。

でも、ライトニング・マックィーンの最期は自分で決める。

チャンスはある。可能性は0じゃない。


1位を走るのは圧倒的なスピード。

新人のジャクソン・ストーム。


次世代レーサー達の中でも最強の相手だ。

何度も負けてる。

ラミレスには、恐れなんてないと言ったけど。

このレースの結果が怖い。

けど、俺は決めた。

レースは最後まで分からない。

リスクを負っても俺は走る。


「マックィーンが順位を上げてる」


現在は15位

スモーキー「いいぞ、坊や。そのままジャクソンのケツまで追いつけ」


!!!


マックィーンの前方でクラッシュが起きる。

イエローフラッグが上がりピットイン。


マックィーン「サリー。ラミレスに戻って来いと伝えてくれ」


サリー「えぇ。そのつもりよ。あなたのファンを連れ戻さなきゃね。勝つんでしょ?」


マックィーン「もちろん。負けるなんてあり得ないね。ラミレスには、おっさんなんてバカにされたけど。おっさんでも勝てるってとこを最期に見せたい。グイド頼む」


グイドのスピーディなタイヤ交換。


サリーはスターリングの指示でトレーニングセンターへ戻ろうとするラミレスを連れ戻しに向かう。


スモーキー「いいか、坊や。負ければ本当に最期だぞ。後悔はするな。ドックと共に走り抜け」


マックィーン「分かってる。フロリダへ来たのはそのためさ。トーマスビルからドックと一緒に来たんだ」


スモーキー「そうか、、しっかりな」

メーター「相棒。お前なら勝てるさ」


マックィーン「あぁ。お楽しみはこれからだ」


リスタート。コースに出ると同時にマックィーンがインを攻める。


スモーキー「若僧どもには出来ないギリギリを攻めろ。最短距離で追いつけ」


マックィーンの頭には、先のクラッシュで痛んだ路面がイメージ出来ている。


マックィーン「ジャクソンはデータで走るだけ。経験則で追いつける」


コーナリング、そして立ち上がり側に次世代レーサー達を抜いていく。


「この隙間を行くのか??一台分もありゃしないぞ」


マックィーン「おっと、ぼっちゃん。ボディをぶつけた事もないのかい?」


マックィーンは隙間をスルスルと抜けて行く。


現在10位


スモーキー「いいぞ。坊やこのラップでさらに追いつける」


サリー「ねぇ!ラミレス。おとなしくスターリングの言うことを聞いて帰っちゃうの?」


ラミレス「えぇ。それが私の仕事だもの。私はレーサーじゃない。トレーナーだから」


サリー「、、あなたの本当の気持ちは?マックィーンが勝つところを見届けなくていいの?」


ラミレス「私マックィーンさんのレースを見届けたい。きっと彼は勝つと思うの」


サリー「なら、あなたもクルーに入って最後まで見届けなさい。行くわよ」


サリーとラミレスは皆んなの元へ戻る。


スモーキー「坊や。お前さんのファンが一人戻ってきたぞ」


マックィーン「ラミレスか?了解。ありがとうサリー」


サリー「頑張ってステッカーくん」


ラミレス「マックィーンさん。このレース勝って下さい」


なりたかった自分。走りたかったコース。目の前のレース。そして憧れのマックィーン。

ラミレスは信じた。


実況「マックィーンは順調に順位を伸ばす!ストームまでの距離も縮まってきた」


マックィーン「蝶のように舞い蜂のように刺すか、、。今は、追いすがるので精いっぱいさ。だが、ライトニング。最期のレースでまだやらなきゃならない事がある。次の世代につなぐ事だ。俺はストームに勝つ」


現在7位につけるNo.95 ライトニング・マックィーン。


スタンドから、マックィーンファンの声が飛ぶ。


「ライトニング・マックィーン!!」


マックィーン「レースよりも大切なもの。ドック今なら分かる気がするよ。この数%のチャンス逃しはしない」


ピットイン前に、さらに一台抜き去り6位につけるマックィーン。


実況「さぁ、各レーサー達が最後のピットインだ。ジャクソン・ストームは不動の1位だが、まだ勝負は分からない。私もピストンカップのファンとしてマックィーンには頑張ってもらいたいところ」


一方、ピットインするジャクソン・ストーム


ストーム「チーフ!データ通りで大丈夫なのか?タイムが伸びない」


チーフ「ストーム。お前の緻密なデータによる走りは9連勝中だぞ。疑う余地はない」


ストーム「だといいけど」


マックィーン「フィルモア!とびきりの燃料頼む!グイド!ルイジ!ラストスパートだ!しっかり頼むぞ!」


フィルモア「お前さんのために、用意しとるわい」


ルイジ「タイヤは私に任せるね。マックィーンを勝利に導くよ」


ラミレス「マックィーンさん。ピットを出たら三周で私に追いついてね」


マックィーン「おぉっと、追いついたと思ったら抜かれないようにしなきゃな!誰かさんに自信を奪われたままだ」


ラミレス「恐れたことはないんじゃなかったの?」


マックィーン「どうかな?正直、今回のレースは怖かったさ。でも、希望が見つかったんだ。未来を走る希望がね」


ラミレス「希望?」


マックィーン「君のことさ。レースが終われば分かる。そのために残り数周。君の未来に繋げてみせる」


行くぞ!と飛び出すマックィーン。


ピットワークでストームとの差が若干縮まる。


ストーム「おい!早くしろ!」


ストームもピットから出る。


ストーム「この差を埋めるなんてことないだろうけどな」


スモーキー「坊や。コースの変化に気づいてたようだな。先のクラッシュゾーンはインをやや避けた方がいい。段差があるし、グリップも良くない」


マックィーン「あぁ!分かってる。だけどこれからは、インからあまり離れる訳には行かない段差を避けながらもギリギリを行く」


スモーキー「そうだな。3周以内にジャクソン・ストームのケツにつけないと勝機はないぞ」


マックィーン「スリップ・ストリームを利用して空気抵抗をギリギリまで減らす。そしてコーナリングで抜き去る。それしかない」


マックィーン「夜に連れそう虫のようにだっけ?」


そして、コーナリング。攻めどき、タイミング。全てが完璧な状態でマックィーンは3位につける。


「このおっさん。何でこんなとこに居るんだよ?シミュレーターではとっくに、、」


マックィーン「ねぇ君。あのシミュレーターってやつだけどさ。あれってイマイチだよね?リアルさが欠けてるというか。俺が出来ない時点であまり実践的じゃないね」


そういいながら、涼しい顔で2位につけたマックィーン。

ストームとの差は、僅かまで迫っている。

ここまでで2周。


ストーム「チーフ!マックィーンはどこにいる?5位くらいか?」


チーフ「お前のすぐ後ろだ。ストーム」


マックィーン「だってさ。ジャクソン・ストームくん」


ストーム「おっさん。いつの間に俺の後ろに!?とっくにちぎったと思ったが」


マックィーン「これからちぎられるの間違いだろ?ストーム。スピードだけの走りじゃゴールまで1位は保てないよ」


そう言いながら、ストームの背後へピタリと着く。


ストーム「おい、おっさん!どうせ俺のスピードに着いて来れなくて脱落するんだ諦めろ!」


直線でやや離されるものの。

コーナリングで追いつき、ストームの揺さぶりに対しても動じずに追いすがる。


ラミレス「すごい。本当に三周で追いついちゃった」


スモーキー「ほらな。勝機はあるんだ。何事もやってみなきゃわからん。坊やもお前さんも」


ラミレス「私もって?」


スモーキー「走りたくてうずうずしてるぞ?お前さんには才能がある。坊やの走りを見て何か感じたなら素直に従うべきだな」


マックィーン「最高速度で負けるのはとっくに受け入れた。ドック。力を貸してくれ。ギリギリでストームに追いつく」


そして、スタンドの観客達も何かを期待し始める。


「マックィーンがストームに僅差のまま2位につけてる!しかも離されない!」


「なんで、マックィーンが追いついていける?」


実況「これは、驚きました。まさかマックィーンがこの土壇場でストームに追いつくとは。今の彼の走りはハドソンホーネットを彷彿とさせます。あらゆる出来事に瞬時に対応してる」


マックィーン「いいかライトニング。数秒しかチャンスはない。ストームの動きを見極めるんだ」


スモーキー「ようし。坊や。ギリギリまで我慢しろ。一瞬の隙を見逃すな」


マックィーン「全てをかける。いくぞストーム」


ストーム「おっさん!いつまで後ろにいるつもりだ?もうゴールだぜ?それじゃ1位は無理だな」


ストームは直線でマックィーンとの差を広げる。


が、、クラッシュエリアでのコーナリング

今日何度も同じ所を通った。

データ通りに。

僅かな轍。

ストームはレースで初めてデータ通りのコースから外れてしまう。


マックィーン「最後のコーナリングに賭けていた。ここしかない」


なんと、マックィーンはコースよりさらにインを攻める。

ダート部分に車輪が入っているが。


マックィーン「ドック。ありがとう。ハンドルを右に切れば左に曲がれる」


刹那。


ジャクソン・ストームの前に今シーズン初めて他車が前に出た。


実況「ラストでマックィーンがストームの前に!!何というコーナリング!!」


スタンドからは、大歓声とマックィーンコールが鳴り響く。


残る僅かな直線。


ストーム「おっさん。いや、マックィーンさん。やっぱあんたすげぇや。でもな、憧れを最強のチャンピオンを俺は今日超える」


ストームの猛烈な加速。


マックィーン「速くは走れない。でも、もう残り僅かな距離だ。限界まで飛ばす」


マックィーンも加速する。

体は痛むが、気分は最高だった。

自分が望んでいたもの。

大切なもの。

残したいもの。

未来へ託すこと。


マックィーン「ストーム。ありがとう。全力で走ってくれて。このレース最高に楽しかったよ」


ストーム「そりゃ良かった。けど、まだ勝負はわからないだろ?」


ゴール直前。ストームがあと僅かまで、追いつく。


そして並ぶ!


スモーキー「行け!坊や!」


ラミレス「マックィーンさん!!勝って!」


マックィーン「ラミレス。レーサーになりたいって夢。絶対に諦めちゃダメだ。こんな俺でも、今こうして先頭を走ってるんだ」


ラミレス「私の夢?」


そして、ゴール数m手前。

二人のレーサーがゴールへ!!


ゴールラインを割る!!


実況「2台同時!?これは、、どっちが勝ったんだ!?」


どよめくスタンド。


ストーム「なんてこった。まさか、刺し切れないなんて。あんた何者だ?」


マックィーン「ライトニング・マックィーンさ」


ストーム「あぁそうだったな。マックィーンさん」


ストーム「俺も最高に楽しかったよ。こんなに追い込まれたのは、レーサーになって初めてだ」


マックィーン「ストーム。これからもきっと楽しめるさ。今度、一人のレーサーを紹介するよ」


ストーム「そいつは楽しみだ」


マックィーン「さぁ結果だ」


電光掲示板へ順位の表示。


No.95 



順位、、、








2位。




マックィーン「そうか。走り切ったさ。今日以上のタイムは出せない」


ストーム「あなたと走れたこと誇りに思う」


マックィーン「納得したよ。スターリングとの約束どおり引退だ」


マックィーン「さて、最後の表彰台に向かおうかストーム」


ストーム「・・・」


スモーキー「坊や良くやったな。しかし、負けは負けだ。仕方ない。いい走りだった」


ラミレス「マックィーンさんはこれが最期の走りなの?」


そして、ジャクソン・ストームは偉業の10連勝を成し遂げる。


そして、マックィーンへのインタビュー。


記者「マックィーンさん!素晴らしい走りでした!前評判を覆すあなたらしい走りでしたね?」


マックィーン「ありがとう。いままでやってきた事は全て出し切れたよ」


記者「ジャクソン・ストームとの勝負は自分で振り返っていかがでしたか?」


マックィーン「あぁ、えっと、ほとんど余裕がなかったからあんまり覚えてないんだ。ただすごく楽しかったよ」


記者「ライトニング・マックィーンファンへメッセージがあればお願いします!」


マックィーン「今日、走る事が出来たのは、僕の亡き師匠ドック・ハドソンをはじめ、今日チーフを務めてくれたスモーキー。ラジエータースプリングスのみんな。ラスティーズのみんな。そして、レース場で応援してくれるファンのみんなのおかげです。今日でレーサー、ライトニング・マックィーンは幕を下ろします。しかし、レーサー人生を通して大切なものを見つけました。それは仲間とレースに出られる事や、走れることが当たり前じゃないんだって事。それが、本当に大切だったと思います」


マックィーン「それから、未来のレーサーへの希望。僕が期待しているのは、もちろんジャクソン・ストームもだけど、もう一人、紹介したいんだ。それは、彼女。僕のトレーナーを務めここまで導いてくれた。クルーズ・ラミレス!彼女には才能がある。そして、それはジャクソン・ストームを超える可能性があるんだ」


ラミレス「私!?」


スモーキー「おやおや、気づいてないのかい?トーマスビルでマックィーンを抜き去った時。あれは、ジャクソン・ストームにも出来なかった事さ。君の才能は本物だ」


マックィーン「みんなには、これからのレースで紹介するけど、クルーズ・ラミレスとライトニング・マックィーンのコンビで今度こそジャクソン・ストームにリベンジだ!かつてのドック・ハドソンと僕のようにね」


マックィーン「最期にみなさんライトニング・マックィーンのわがままに付き合ってくれて本当にありがとう。またレース場で会いましょう!」


盛大な拍手とともに表彰式が終わる。

と、その前に、、。


ストーム「待て!マックィーンさん!何かにあんたは気づいていない!たしかにあのコスプレちゃんにも才能があるのかもしれないがあんたの今日の走りは本当に2位だったのか?」


マックィーン「え?なんだって?間違いなく君より後にゴールしたはずだ」


ストーム「あぁそうだな。ただし、それは同じスタートラインから始まった場合だろ?あんたは、今日の最後尾からスタートした」


ストーム「おい!今日のタイムを出してくれ!」


電光掲示板へはタイム表示。


1位 ライトニング・マックィーン No.95


の表示が。


どよめく会場。


ストーム「まったく、やってくれるぜ。また会おうなチャンピオン」


マックィーンには状況が飲み込めない。


スモーキーのいい走りだった。負けは負けだ。の意味がここにあった。


ラミレス「次世代レーサー達を相手にコースレコード?これがライトニング・マックィーンなの?」


マックィーン「あぁ。本当にいい走りだったんだなぁ」


会場から湧き上がる盛大な拍手と歓声。

マックィーンコールに包まれながら、ライトニング・マックィーンチームはレース会場を後にした。


・・・一年後。






マックィーン「そうだクルーズ!最終コーナーで度肝を抜いてやれ!ストームの前に出ろ!」


ドック・ハドソンと同じNo.51をつけた黄色い車がストームを追い越す。


ラミレス「夢は叶うのね。マックィーンさんが教えてくれた。チャンスも与えてくれた。私たちはこれからも走り続けるわ」


ストーム「くそっ厄介な連中だ」


今シーズン。

クルーズが、僅差でストームを下し初優勝を飾ると次世代レーサー達を交え。新しい時代を切り開いて行った。





そして、そこにはライトニング・マックィーンの笑顔があった。





さぁ、みんなレース場でまた彼らを見に行こう。

明日は、どんなレースになるのか?




、、、カーズ達は走り続ける。